岸田政権の強引な政策転換が止まりません。しかし、注意すべきはこれらの政策転換が岸田首相のイニシアチブにより積極的に行われているのではなく、官僚が用意した筋書き通りに岸田首相が動いているように見えることです。岸田政権は、批判を受けそうな政策転換に関して、選挙で争点にすることも国会で十分な審議も議論を行うことなく国民が知らない間に決定しており、大問題だと指摘せざるを得ません。国民の皆さん、こんな暴挙を許していいのですか?
「新しい資本主義」を筆頭にポリシーの欠如が露呈
岸田首相はいかにも宏池会らしいハト派の政治家という印象ですが、悪く言えばそれ以外にはこれといった政策的な特徴がないと批判もされてきました。岸田氏は2020年の自民党総裁選出馬時以来、「成長」と「分配」の好循環による「新しい資本主義」を掲げていますが、これが何するのかは意味不明です。新自由主義からの脱却を目指しているのでしょうが、格差是正のために金融所得課税の強化を打ち出したことに対して富裕層から反発を受けるとすぐにトーンダウンし、結局対象を年収30億円以上に限定して発表しました(対象者は200~300人程度)。そして、これとは反対な方向で「資産所得倍増プラン」を正式決定しましたが、その内容はNISA(少額投資非課税制度)に関して恒久化と非課税保有期間の無期限化を行い、株式口座を倍増させ投資額も倍増させるという投資を煽るものになりました。挙句の果てに、岸田首相は唐突に「女性の経済的自立が新しい資本主義の中核」と発言するなど、経済政策は迷走を続けています。
外交面では、表向きロシアによるウクライナ侵攻を非難し他のG7諸国との歩調を合わせているものの、実際には経産省の言いなりになってサハリン州での石油・天然ガス開発プロジェクト、サハリン1、サハリン2への民間企業の出資を進め、逆にロシアへのエネルギー依存を高めようとしています。
新型コロナウイルス感染症対策については、安倍、菅政権同様に後手に回り続けているのは言うまでもありません。第7波の時には発熱外来や入院にたどり着けない事例が頻発し政権の無策ぶりが非難されましたが、第8波になってもそれは変わりません。現在2類に指定されている新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けの見直しに関しても、世論に押されてようやく議論が始まったものの、岸田首相はいつまでに見直すのか指示しておらず、年末になってもだらだらと議論が続いている状態です。
こうした、首相のイニシアチブの欠如によって、停滞が続いている政策分野が多いものの、外圧や官僚が強い意向で政権に対して政策転換を求めている分野に関しては、岸田首相は彼らの意に沿うような政策転換や増税を非常に姑息なやり方で短期間に決定してしまいました。
安倍政権の安保法制強行採決に引き続き、国民不在で解釈改憲を進める
その中でも国民の反発が一番強いのは、敵基地攻撃能力の保有、防衛費の大幅増額とそれに伴う増税を国民に対する十分な情報開示もなく、短期間で決めてしまったことです。
ここで日本国憲法第9条に条文を提示したいと思います。
第二章 戦争の放棄
第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2. 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
憲法がこのように規定しているのにもかかわらず、集団的自衛権を行使し、自衛隊の戦力が世界第5位になっている状況はおかしいとしか言いようがありません。ただでさえそうなのに、条文の変更なしに敵基地を先制攻撃する権限まで自衛隊に与えるとなると、9条の現状に対しては「形がい化」という以外に適切な言葉がありません。
私たち進歩党は、9条の精神は残さなければならないと考えておりますが、日本を取り巻く国際情勢を考えると9条の条文の変更は必要であり、自衛隊(またはそれを改編した場合の後継組織)の役割と任務の限界を憲法上明記すべきと考えています。これ以上憲法の条文と現状が乖離するのを防ぐには、現状を条文と整合させるようにするか条文を現状に適合させるしか方法はありません。前者は日本共産党や社民党の考えですが、残念ながらプーチン、習近平、金正恩という独裁者を相手に戦争放棄を訴えたところで、彼らが考えを変えるはずもありません。であるのならば後者を取るしかありませんが、岸田首相は安倍元首相と同様に、国民に広く憲法改正の必要性を訴えて公明正大に立憲主義的な改憲手続きを踏むことを放棄し、解釈改憲に走りました。
総額ありき、財源確保や装備の精査は二の次の防衛費増額
防衛費の増額に関しては、2027年度に対GDP比2%に到達させるために総額ありきで押し通し、財源確保や装備の精査は後回しでした。多くの方がご存じのように対GDP比2%というのはNATO加盟国の国防費の基準です。確固としたポリシーがない岸田首相が自分から進んで防衛費対GDP比2%にしたいと言うわけはないでしょう。アメリカ政府はこれまでも日本政府に対して防衛費の増額を要望してきましたが、ウクライナ戦争でその要求がより具体化されたのではないかと思います。バイデン米政権は、ロシアがウクライナ以外の地域にも戦線を拡大させる可能性や習近平政権による台湾攻撃の可能性を考えて、西側諸国の集団安全保障体制をアジア太平洋地域までに拡大することを考えていると思います。個人的な憶測ですが、そうした意向がG7などで非公式に示されたので、岸田首相はそれに対して対応しなければならないと思ったのだと思います。
私自身は、NATOを発展的解消し日米安保条約などの二国間条約を廃止する代わりに民主主義国家間で新しい集団安全保障条約を結ぶことには基本的に賛成します。その方がより公正な安全保障条約になるでしょう。しかし、日本がそうした新しい枠組みに入るのならば、相応の軍事ないし防衛的貢献を求められるわけで、集団的自衛権の問題に再び直面します。それを考えるならば、まずこれからの方向性を国民に示すことが重要です。何故2%なのか、政府は集団的安全保障に対してどう考えているのか、憲法改正はどうするのか、最低限必要な装備は何でありそれをそろえるためにどれくらいかかるのか、財源をどうするのか、それらを何故、参議院議員選挙の時に議題に挙げなかったのでしょうか?国会閉会間際になって、自分の党内に対してもまともな資料も提示せずに防衛費増1兆円余りを増税で賄う内容の来年度予算案を押し通したのは、姑息としか言いようがありません。
たった5回の会議で原発新増設方針決定
防衛費と同様に酷いのは原発政策の方針転換です。岸田政権はたった5回のGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議を経て、これまで原発事故の教訓を踏まえて定めた原則40年、最長60年としてきた運転期間ルールを変更して実質的に上限の60年を超える原発の長期運転を容認し、さらに次世代型原子炉の開発・建設に取り組むことまで決定しました。福島事故の後、原子力行政の独立性の確保を掲げて発足した原子力規制委員会も、十分な検討なく岸田政権の方針を追認し、規制ルールの変更を了承してしまいました。原発運転期間延長問題をめぐって規制委員会の事務局である原子力規制庁と経産省が事前にやりとりしていたことが明らかになりましたが、原子力規制委員会はもはや政府の方針を追認するだけの機関となってしまったといえるでしょう。
岸田首相は2020年の自民党総裁選の際に「法の支配の徹底」を訴えていましたが、安倍元首相、菅前首相同様にこうしたルール破りの前近代的で不透明な政治手法を踏襲しているのは日本の恥です。
電力ひっ迫も脱炭素社会推進も原発活用の理由にはならない
原発政策に関しては、政策推進手法の陰湿さに加えて、実際に推進する政策も非合理的です。岸田首相は電力ひっ迫や脱炭素社会の推進を原発活用の口実にします。しかしながら、電力ひっ迫解消に関して重要なのは需要の急増減に柔軟に対応できる電源であり、出力調整ができない原発を持ち出しても意味がありません。そして、電力需給ひっ迫が起こりうる主因は中途半端な市場化という声もあります。そもそも電力ひっ迫自体、経産省があれだけこの冬の電力ひっ迫をあおっていたのに全く起きていません。岸田政権は、2021年4月に2030年度において、温室効果ガス46%削減(2013年度比)を目標に掲げましたが、2030年代以降に原発を作っても目標達成には全く貢献しません。
岸田政権は財界、経産省や電力業界などの原発ムラに押されて、「革新軽水炉」など次世代型原子炉を新たに建設することを目指しています。しかし、小型モジュール炉(SMR)の建設はこれまでいろいろ試されてきたものの成功しておらず、推進者が唱える安全で低コストというメリットは存在しないとの批判があります。
ロシアが原子炉にミサイル攻撃したらどうするのですか?
三菱重工は自身が計画している革新軽水炉に関して「航空機が衝突しても耐えられる」などと言っていますが、ウクライナ戦争でのザポリージャ原発の状況を見ても想定が甘すぎるとしか言いようがなく、ロシアが原子炉に対してミサイル攻撃を繰り返した場合に耐えられないのは明らかでしょう。革新軽水炉を推奨する人たちはそれが起きた場合に日本の国土がどうなるのかを想像したくないのでしょうが、そんな正常化バイアスに支配された無責任な人たちに日本の将来を台無しにされてはたまったものではありません。ウクライナ戦争によって原発の危険性が改めて浮き彫りになったことに目を背けてはなりません。実際のところ、原発回帰は再生可能エネルギーの普及・拡大の妨げでしかなく、外部攻撃に対して非常に脆弱で核のゴミを生産し続けるという意味で全くグリーンな存在ではありません。
外圧、霞が関や財界からの圧力に弱い岸田首相が法の支配を無視
確固としたポリシーがない岸田首相は、これまでの自民党所属の歴代首相と同様に米国政府の意向という外圧、霞が関や財界からの圧力に弱いと言えるでしょう。彼らからの要望の全てが悪いとは思えませんが、もっと政策を吟味して主体的な判断をすべきで、要望に応えるために民主主義的プロセスを軽視してほとんど密室で物事を決定する政治姿勢は言語道断としか言いようがありません。
自民党が政権に復活してから10年が経ちましたが、悪い意味で保守政党らしい時代錯誤で前近代的な意思決定による弊害が深刻化してきました。アカウンタビリティが低い政権が続き、国民の政府に対する信頼は低くなる一方です。これだけ岸田政権が不人気なのに政権交代の芽が出てこないのは、立憲民主党・日本維新の会・日本共産党など国政野党が良い選択肢を提示していないからです。2023年は一人でも多くの国民の皆様に、私たち進歩党が提示する新しい選択肢を理解していただけるようにより一層努力して参ります。皆様のご支援を宜しくお願い致します。