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新会長選出への露骨な政治介入は五輪憲章違反

女性蔑視発言で辞任した東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長の後任に橋本聖子参議院議員が就任しました。森氏から直接に後継会長就任を要請された元日本サッカー協会会長の川淵三郎氏に関して菅首相が難色を示し、組織委のスポーツディレクターを務める小谷実可子氏が有力だとの一部報道もありましたが、結局、菅首相の強い意向を受けて橋本聖子氏で一本化されたようです。

結論から言えば、新会長選出はオリンピック憲章が要請している政治的中立性から大きく逸脱し、密室で短時間で決められた点で問題が多いと強く批判せざるを得ません。

今回の橋本氏選出で非難を浴びているのは、主に、①新会長選出過程と新会長の地位から組織委の政治的中立性が損なわれたのではないか、②選出にあたって十分な議論が行われたのか、③過去にセクハラに当たると批判された行動をおこした橋本氏がセクハラ発言で辞任した森氏の後継として適任なのか、という3点だと思います。

まず、①に関しては、オリンピック憲章の「オリンピズムの根本原則(Fundamental Principles of Olympism)」第5項には、こう書かれています。

「オリンピック・ムーブメントにおけるスポーツ団体は、スポーツが社会の枠組みの中で営まれることを理解し、政治的に中立でなければならない。スポーツ団体は自律の権利と義務を持つ。自律には競技規則を自由に定め管理すること、自身の組織の構成とガバナンスについて決定すること、外部からのいかなる影響も受けずに選挙を実施する権利、および良好な
ガバナンスの原則を確実に適用する責任が含まれる。」

組織委員会は、当然、オリンピック・ムーブメントにおけるスポーツ団体に含まれるので、条文を読めば、外部からのいかなる影響も受けずに選挙を実施することは組織委が有する権利というだけではなく、義務でもあります。

それゆえ、菅首相が橋本氏へ一本化するよう、組織委に圧力をかけ、組織委がこれに屈して、候補者検討委員会に対して橋本氏に一本化を要請したのであれば、組織委の行動はオリンピック憲章違反になるでしょう。そもそも、橋本氏は検討委員会が開かれている時は自民党に所属するオリンピック・パラリンピック担当大臣だったわけで、政治的には全く中立的でない人物に対して、組織委員会傘下の検討委員会が会長就任を要請するというのはおかしな話です。組織委員会がオリンピック憲章を遵守する意識が全くないのか外部から相当強い圧力がかかったのかのいずれしかありません。すでに、野党から批判を受けて橋本氏は自民党に離党届を提出しましたが、会長が国会議員であること自体が政治からの中立性を損なわせるのは明白です。さらに、橋本氏は比例区での選出なので離党後に議員辞職を求める声が高まることは必至でしょう。

②は①と関連していますが、検討委員会は16、17、18日の計3回開催されたものの、16日に約1時間10 分で選考基準を定め、17日にわずか約1時間半で橋本氏への一本化を決定したとのことです。御手洗富士夫検討委員会座長によると、検討委委員の8人から名前が挙げられたのは合計9人だったそうで、9人も候補者がいるのにそれぞれに対してまともに検討作業を行っていなかったのは明らかです。
そして、③についてですが、私は、過去に不祥事を起こした人物は絶対に公職に就くべきではないとは思いませんが、過去の不祥事が就任に関して障害となる公職に就く場合は、そのことが問われるのは当然だと思います。それゆえ、検討委員会は橋本氏に関しては、当然問題となっている行為を考慮し、本人がその行為にどのように向かい合っているのか問い合わせるべきです。前任の森氏がセクハラ発言で辞任に追い込まれた以上なおさらです。しかしながら、御手洗氏によると橋本氏の過去の問題行為については「議論はなかった」とのことで、検討委員会がまともに機能していなかったことは明らかです。

以上から、検討委員会は実質的には名ばかりの存在で、橋本新会長選出が菅政権の強い意向で決まった可能性が非常に高いことが分かります。橋本氏が会長として適任であるか以前に、オリンピック憲章に違反した形で選出されたのであれば、選出自体が無効なのではないでしょうか。本来、このような露骨なオリンピック憲章違反行為を経て決まった人事に対して、IOCはこれを認めず強く抗議すべきですが、バッハ会長は新会長に対して「この役職に最適だ」と述べているくらいなので、IOCも東京オリパラ組織委と同レベルな組織なのでしょう。

しかしながら、IOCの態度など気にする必要はなく、新会長選出の経緯は追及されるべきです。政権の意向で検討委員会が無力化されたことが明らかになれば、これは大問題です。





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