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大阪都構想の問題点

大阪市を廃止し4つの特別区を設置することについての住民投票が11月1日に行われる。
住民投票を提起した日本維新の会・大阪維新の会はこれを「大阪都構想」と名乗っている。つまり、将来的には現大阪市に隣接する市が特別区に加わり、大阪府を現在の東京都の様に「大阪都」に改名して、大阪都が特別区とその他市町村から成り立つようにしたいというのが彼らの目標である。

8月末には「大阪都構想」に対して賛成が反対を上回っていたものの、直近の世論調査では拮抗し、日本経済新聞社とテレビ大阪の合同調査(16-18日)では、賛成40%・反対41%、読売新聞・読売テレビの合同調査(23-25日)では賛成44%・反対41%、共同通信の調査(23-25日)では賛成43.4%・反対43.6%、毎日新聞の調査(23-25日)では賛成43.3%・反対43.6%など、反対がわずかに賛成を上回る調査が多くなってきており、予断を許さない状況になっている。「賛成」が勝ったとしても「反対」が勝ったとしても僅差の勝利になるだろうから、将来に禍根が残るであろう。大阪府を東京都のような形にするのはかなり大変そうである。

結論から先に言えば、私は現状の大阪市の面積が小さすぎると考えているので、「大阪市」に相当する行政区域に関して、何らかの形で拡大を目指すべきだと思っている(次項「小さすぎる大阪市」参照)。それゆえにやや賛成ではあるが、維新のプランは欠陥が多いので早急に見直されるべきだと考えている。

今回の大阪市廃止・特別区設置に関して、維新側は大阪府と大阪市の二重行政が解消されることを最大の推進理由としている。反対する自民党大阪府連・立共社などの野党は、大阪市分割は逆に非効率を生み、大阪市が無くなることは市民のアイデンティティを失わせるものだと訴えている。大阪市のような政令市における「二重行政」とは、政令市は都道府県から様々な行政権限を移譲されているので、都道府県と当該政令市の連携が上手くいかない場合に、似たような行政サービスや公共プロジェクトを両者が同時に行うことにより経済的な非効率が生じることを言う。

維新の戦略が間違っているのは、①二重行政廃止を訴えることに重みを置きすぎていること、②特別区の線引きがあまりに雑すぎること、③戦時体制の名残である「東京都」をそのまま真似ようとしている事、④「大阪都」が出来たとしてそれを維新が推進の立場を取る道州制にどうつなげようとしているのか全く見えないことである。

かつては大阪府において、府と大阪市の対立から二重行政の非効率が頻繁に指摘され、これが維新が二重行政解消を訴えるきっかけになった。しかしながら皮肉なことに、大阪府において府政と大阪市政の両方を維新が掌握したので府と大阪市の関係が円滑になったことから、制度を変えることなく二重行政の非効率性がかなり解消されてしまったのである。それゆえ、維新が今さら二重行政の解消を訴えても説得力が欠けるようになってしまったと言える。さらに現行の大阪市内の区を廃止してオフィス街や歓楽街があるキタやミナミも、住宅街や工場ばかりの淀川周辺も、すべて居住人口60-75万人で4等分するのはかなり乱暴な計画である。

維新が憧れている「都」に関しても、かなり特異な制度で褒められるような代物とはいえない。現在の東京23区は、戦前は「東京府」に属していた「東京市」であった。戦時体制遂行という目的で、1943年に東京府と東京が廃止されて「東京都」が誕生し、東京市役所の機能は東京都庁に移されてしまった。各23区は東京都の行政区であり、地方自治体としては課税権や行政権限は市町村より小さく、市町村が手がける水道業務や消防などは東京都が行っている。東京市が東京都に併合された当時、東京市の東京府に占める人口の割合が9割を超えていたために(東京府の人口約730万に対して東京市は約680万)、東京市と東京府内の他の市町村を並列に扱えないと考えられたからであろう。しかしながら、今でも東京23区の人口は都の人口の7割近くを占めるものの、知事が人口最大市である「東京市」の市長を兼ねるという現行制度は東京都だけ適用されており、このような特異な制度が取られている地域は世界でも珍しいのではないか。

維新のプランは、特別区という制度を導入することによって「大阪市」に相当する地域を拡大させることを目標としているものの、東大阪市や豊中市など人口規模が大きい隣接自治体の特別区への移行が見通せない中で、コアとなるはずの「大阪市」という存在を先に消滅させることは政治的なリスクが高い。仮に周辺の自治体の特別区への移行が実現しなければ、大阪市を拡大させるのではなく、大阪市を4つに分割して「大阪市」という名称を消滅させるだけになる。市民の行政へコミットメント(関与)出来る度合いについても、新設される各特別区は一般の市町村よりも権限が少ないので、特別区在住人口の比率が増えなければ(大阪市の人口は大阪府全体の人口の約三分の一)、低下させるだけに終わりかねない。

何故、維新は東京都という見本にならない制度を真似ようと思ったのであろうか?他国における大都市制度をもう少しじっくりと研究すべきではなかったか?ソウル市・台北市・北京市・上海市・ベルリン市・メキシコ市など、海外では自国の最重要的都市をその他のどの自治体にも属さない特別な「市」と設定しているケースが多く存在する。大阪に関しても、維新は都道府県と対等な存在の「特別市」という制度を創設させて、大阪市を大阪府から分離させて「特別市」に移行することを目指すべきではなかったのか?府内の大阪市に隣接する市に対して大阪特別市への統合を促せば、大阪府をおおよそ摂津および河内北部と河内南部と和泉に2分割させる流れを作ることになるので、その方が合理的ではないだろうか?前者を大阪特別市、後者を大阪府として堺市あたりを府庁所在地とした方が行政的な関係はすっきりする。

また、維新は道州制推進の立場を取っているが、「大阪都」と「関西州」の両方が仮に成立したとして、両者の関係をどのようなものにする気なのだろうか?都府県は廃止する気なのか、その場合、各特別区はどこに帰属させる気なのか?全く不透明である。

その点、社会民主進歩党の地方分権プランは明確だ。まず、全国の都道府県を経済的にまとまるがある地域ごとに10個に分割して州を設置する。州の下部組織として現行の都府県は当面存続させるが国から都府県への財政援助は行わず、州からのみとする(北海道に関しては支庁に代わり県相当の組織を置く)。東京23区・大阪市・名古屋市・福岡市・札幌市に関しては、都府県から独立し州の直下に置かれる特別市にして、必要に応じて近隣市との合併を促す。国の首都・州の州都への一極集中を排除するために、首都移転を行うとともに州都は各州の人口最大都市以外の都市に置くことにする。

こうすれば、経済は政治から独立し、各地域においてより健全な形で都市間競争が実現しやすくなるであろう。





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