岸田首相(自民党総裁)は9月13日に内閣改造を行い、あわせて党役員人事も行いました。
一言でいえば適材適所とは程遠い内容でした。党の支持基盤である保守層への配慮・最大派閥の安倍派からの支持取り付け・ライバルの徹底的囲い込みによって政権の延命を図ることに終始した、きわめて内向きな人事であると言わざるを得ません。日本経済の国際競争力が落ち続けている中、保身を最優先にする岸田首相に対して心底怒りを感じます。
改造内閣の顔ぶれを見ると、松野博一官房長官、鈴木俊一財務相、西村康稔経産相、河野太郎デジタル担当相、高市早苗経済安全保障担当相などの主要閣僚の多くが留任した一方で、外相には親中派と批判されていた林芳正氏に代わって上川陽子元法相が就任しました。
女性閣僚は、上川氏を筆頭に過去最多に並ぶ5人になりましたが、初入閣の3人はいずれも世襲かつ権限が弱い特命担当大臣であり、批判を避けるためにとりあえず数だけ増やしたという印象がぬぐい去れません。今回新たに就任した男性の大臣に関しては、年齢高め・当選回数が多い、いわゆる「入閣待機組」の意向に応えた印象が強く、「在庫一掃内閣」という批判も聞かれます。さらに、副大臣政務官人事に関しては、54人中女性はゼロと、信じられない対応です。自民党所属の女性国会議員は45名、入閣した5名を除いても40名います。全く言い訳ができない話で、岸田首相が一番目立つところの体裁を整えることしか頭にないことがよく分かります。
一方、党役員人事については、岸田首相の後見人である麻生太郎副総裁、ライバルの茂木敏充幹事長、党内最大派閥安倍派に所属する萩生田光一政調会長と高木毅国会対策委員長など主だった面々が留任しました。政治資金収支報告書の虚偽記載問題を抱える小渕優子氏(茂木派所属)が選対委員長に起用されましたが、これは刷新感を出すというより、茂木氏へのけん制の側面が強いとも指摘されています。週間文春による妻の元夫の死亡を巡る疑惑に関して、公の場での説明を全くしてこなかった木原誠二官房副長官は、党幹事長代理兼政調会長特別補佐という要職に起用されるとのことで、マスコミからの追及を避けるために閣外に逃げたと言っても過言でありません。
挙句の果てには、連立入りを模索していると指摘される国民民主党に所属していた矢田稚子前参議院議員(元国民民主党副代表)が首相補佐官に就任しました。この不自然な人事は今回の内閣改造では立ち消えとなった国民の連立入りへの地ならしであるという見方が一般的で、旧民主党系勢力の分断工作でしかありません。
旧民主党最大の支援団体だった連合(日本労働組合総連合会)は、支援政党に関して立憲民主党(旧総評系の官公労が支援)と国民民主党(旧同盟系の民間労組(製造業系労組が中心))に「股裂き」状態が続いていますが、連合内では民間労組の力が強くなっていると言われます。自民党に取り込まれていると揶揄されている芳野友子会長も、製造業系の民間労組であるJAM(ものづくり産業労働組合)出身です。矢田稚子氏は同じく製造業系の民間労組である電機連合に所属していることから、矢田氏の首相補佐官就任は、国民民主党の玉木雄一郎代表・芳野連合会長・電機連合から事前に了承を受けていたと考えるべきでしょう。
ここまで書いて、岸田首相が権力の維持を最優先に行動していることに改めて怒りを感じましたが、私が一番許せないのは、財政・金融のエキスパートとは全く言えず、財務省の言いなりと批判される鈴木財務相を留任させたことです。茂木氏が岸田首相からの財務相就任要請を断った結果であるとも言われていますが、民間も含めてもっと適任な人材はいるはずです。素人が財政政策・金融政策に定見をもたないのは当然ですが、円の通貨価値がどんどん下落しても政策当局が何も有効な手を打てない状態は悲劇だと言わざるを得ません。また、インフレに賃金の上昇が追い付かない状況で増税を進めれば、悲惨な状況になることが予想されますが、この大臣では財務官僚に反論することは不可能でしょう。そもそも、なんでこのような人物が財務相に選ばれたのかと言えば、鈴木氏の父は鈴木善幸元首相、義兄(姉の夫)は麻生太郎氏で、鈴木氏は麻生氏に所属、当然、就任には麻生氏の意向が働いたと言われています。ここでも世襲政治の弊害が表れています。
岸田首相は「明日は今日より良くなると誰もが感じられるような国を目指す」と言っていますが、そうなると本気で思っている国民はほとんどいないでしょう。時代遅れの世襲・男性中心の自民党にこのまま日本を任せていては、この国の衰退が止まるはずもありません。 そして、自民党政治になびく国民民主党や日本維新の会は、この国の民主主義と経済を崩壊させる翼賛体制の一翼を担っているだけに過ぎません。一方で、立憲民主党・日本共産党・れいわ新選組・社民党は従来型左派政党的な主張を繰り返しており、多くの国民はこれらの政党に未来を託したいとは思わないでしょう。この国には、第三の選択肢が必要です。