立憲民主党の本多平直議員が、同党の法務部会の勉強会で「例えば50歳近くの自分が14歳の子と性交したら、たとえ同意があっても捕まることになる。それはおかしい」と発言した件が引き続き問題になっています。本件については早くコメントしようと思っていたのですが、非常にセンシティブな問題であり、性的被害に遭われた方々の感情を考え、私としては時間をかけて内容を考えた次第です。
選挙前のトカゲのしっぽ切りはやめるべき
最初に指摘せざるを得ないのは、立憲民主党のガバナンス体制の杜撰さです。この問題が起きたのは6月7日ですが、同党執行部が処分を行う方針を発表したのは一カ月以上たった7月中旬になってからです。党執行部は本多氏に自ら出処進退を判断するよう求めてきたものの応じなかったために、党の名誉、信頼を傷付けたなどとして、党員資格1年停止の処分とする方針を示しており、本多氏は党倫理委員会で正式決定されれば内定していた次期衆院選の北海道4区での公認は事実上取り消される予定です。
表向き放置していた問題に対して一カ月以上経った後にこのような処分を下すというのは、党勢が低迷している上に性暴力を根絶する団体などの抗議もあったことから、急遽方針転換せざるを得なかったからだと考えれられます。本多氏本人から十分意見を聞き調査委員会で公正なプロセスを踏めばよいものを裏で本多氏に出処進退を判断するよう求めるというのは、如何にも古い日本的な対応で、とても「まっとうな政治」を標榜している政党がやることとは思えません。さらに、処分理由について「党の名誉、信頼を傷付けた」などと言及するのも理解不能です。立民の名誉など党外の人間にとっては本当にどうでもよいことです。
同党には、選挙を前にしてトラブルを避けたいのでトカゲのしっぽ切りをして乗り切ろうという発想しかないように思えてなりません。しかしながら、本多氏を排除すれば良い話だとは思えませんし、後述のように、本多氏の言動に問題が多々あるにせよ、私は18歳以上と未満の者と間の性行為の妥当性についての議論を抹殺するようなことはすべきでないと考えます。立憲民主党の姿勢にはこの問題にどのように取り組むのかが全く見えないのがやっぱりというか残念で他なりません。
選挙を前にしてトラブルを避けたいのでトカゲのしっぽ切りで乗り切ろうというというのは、旧立民時代の2019年千葉県市川市議選における門田直人氏の公認取り消し事件もそのような例の一つです。門田氏の娘さんともう一人の同党公認候補者の間で口論になり暴力が発生した件について、門田氏が積極的に仲裁に入らなかったのが表向きの理由とのことですが、当時の県連代表が「被害届を出さないでほしい、出すのであれば公認を外す」といったのに門田氏が被害届を出したのが本当の公認取り消しの理由だそうです。さらに、福山幹事長以下党本部はこの県連の決定を追認し、党本部としてまとも対応しませんでした。
こういうその場しのぎ的な対応を取ることに、この政党というより(旧民主系)は慣れきってしまっているのでしょうか。私もかつてこの党の現副代表に一人(大臣経験者)と面会する予定になっていたことがありましたが、こちらが特段おかしな対応をした訳でもないのに、日程調整の途中である日から何の理由の提示もなく先方から返信が来なくなり、キャンセルになりました。この党が「まっとうな政治」を訴えているのならば、まっとうなせめてまっとう党内ガバナンスを実践していただきたい限りです。
18歳未満との合意がある性行為はなぜ問題?
かなり前置きが長くなりましたが、本題の本多議員の言動について私なりの見解を述べたいと思います。
まず、本多議員の発言で問題になっている「50歳の男性と14歳の児童との間の同意の上での性行為」に関して、ネット上では法律違反だとの声が多く見受けられますが、日本の性的同意年齢は男女とも13歳以上に設定されており、18歳未満の者に対する「淫行」を処罰対象としています。必ずしも罰せられるわけではないのでこの点は最初に指摘したいと思います。
売春や虚偽情報等に基づくものは論外として、「年齢差がある18歳以上と未満の者の間の合意がある性行為」が問題になる第一の理由としては、年齢差に起因した主従関係や権力関係により年少者は性行為を断りにくいケースが多々あることが挙げられます。それゆえ、表面的に同意しているように見えても、後に当該性行為に対して否定的感情が起こり、このことが年少者の心身に多大な影響を及ぼす可能性があるということが問題だと私は考えます。
私は、①主従・権力関係、売春、虚偽情報等に基づくものではなく当事者間の同意に基づいている、②当該性行為が心身に悪影響を及ぼさないことがかなりの高い可能性で予想される、③当該性行為によっていずれか片方の経済状態が制約されることはない、ならば性行為の自由はできるだけ認められるべきと考えています。上記の三つの条件全てを満たしているならば、個人恋愛による性行為を政府が禁止する理由はだいぶ少なくなるのではないでしょうか(他に指摘すべき点が抜けているかもしませんが、それに関しては指摘していただければ幸いです)。
私は、上記に挙げた条件の一つでも欠けていた場合は性行為がなされるべきではないと思いますし、当事者間でいずれの条件が満たされているとの共通認識があった場合でも、後にこの性行為に対して否定的感情が生じそのことが特に年少者の心身に悪影響を及ぼす可能性があることから、年少者がより慎重に判断する能力を身に着けてから性行為が行われるべきだと考えます。以上から、性的同意年齢を義務教育終了相当年齢である15-16歳に引き上げるのが妥当だというのが私の意見です。
「同意」は、成立し得ないのか?
ここで問題になるのが、「年齢差がある大人と13歳以上18歳未満の児童との間における「同意」は、成立し得ない」のか、「年齢差がある大人と13歳以上18歳未満の児童との間に恋愛は存在しない」のかということです。
「本気で14歳との間で恋愛が成り立つと思っているのあれば、精神レベルに問題があります」(某弁護士)とう意見を目にしましたが、私はこのような発言は訂正すべきだと思います。フランスのマクロン大統領夫妻のエピピソードを称賛するつもりはないのですが、夫妻の長期にわたる関係を考えると、一律に「年齢差がある恋愛」が存在すること自体を否定するのは非科学的ではないでしょうか。マクロン氏は高校生だった15歳当時、同級生の少女ロランスの母でフランス語教師だった24歳年上の現ブリジット夫人に愛を告白し、そのまま接吻したそうです。仮に、年下の男性が自分の倍以上の女性に一方的に恋心を抱き、女性が男性を受け入れて性行為に及んだとして、女性は男性を搾取したと主張するのは妥当でないと感じます。それゆえ、私としては「年齢差がある恋愛」が存在すると思いますし、「恋愛心」をいだくことまで、頭がおかしいとかいうのは内心の自由の侵害だと思います。
問題の舞台となった立憲民主党の性犯罪刑法改正ワーキングチーム(WT)に関しては、本多氏はWTの設置段階から、メンバー構成などについて座長を務める寺田学衆院議員との間で考え方に隔たりがあったそうです。ある報道によると、本多氏はWTで被害当事者を呼んで話を聞くことへの不満を再三述べており、寺田氏は、本多氏がWT設置を望んでいないと感じたとのことですが、これは当事者双方から話を聞かなければ分かりません。
性的同意年齢は引き上げるべきだが、しっかりした議論を
性交同意年齢の議論に関しては、フェミニストと男性リベラリストの対立構造があると言われ、講師としてWTの会合に招かれていた大阪大学大学院法学研究科の島岡まな教授(刑法)は「そもそも、50代の大人と14歳の子どもとにおける「同意」は、成立し得ない」、「主従関係や権力関係などの明らかな力の差だけでなく、年齢差がある場合も、表面的に同意しているように見えても、客観的には性的搾取」と主張しており、性的同意年齢引き上げには慎重(反対?)だった本多氏と意見が全くかみ合わず、対立関係にあったことが推測されます。
WT座長である寺田氏が年齢引き上げ賛成派の意見を優先した運営を行っていたと本多氏が感じたことから、不満に思った本多氏は、アエラの記事に書かれているような攻撃的な態度を隠せなかったのだと思われます。賛成の論者の中には、本多議員など年齢引き上げに反対または慎重な態度を取る議員や弁護士に対して「未成年との性行為をしたいから年齢引き上げに反対しているように思える」と主張している人がかなりいます。私は年齢引き上げに賛成の立場ですが、そのような主張は証拠を示せなければ単なるレッテル張りとの批判を受けかねず、反対派を説得するには逆効果となるでしょう。
立憲民主党はWTの在り方まで議論されるのが嫌だから、トカゲのしっぽ切りで終わらせたいのかもしれませんが、フェミニストと男性リベラリストの対立を解消し合意を実現するというのは、リベラル陣営にとって非常に重要なことです。本多議員も自分が正しいと思っていることはしっかりと主張すべきですし、何故反省しているのか、どの部分が問題だと思ったのか、マスコミの前で話すべきす。党も処分の前にその機会を与えるべきだと思います。
立憲民主党は公正な人選の上での十分な議論を経て本多議員に対して処分を下すべきです。