代表ブログ

トランプ完勝後の世界に待ち構えているもの

11月5日に投開票が行われたアメリカ大統領選挙は事前には大接戦が予想されていましたが、(接戦ではあったものの)共和党のトランプ氏が予想より多くの票を獲得し、激戦7州全てで民主党のハリス氏をリード、そして、全米での得票数も共和党候補が久しぶりに民主党候補を上回る形になり「トランプ完勝」と言える結果となりました。

 私は、政策的な近さから民主党候補であるハリス氏の勝利を望んでいましたので、私にとっては非常に残念な結果となりました。ハリス氏敗北の原因としては、やはりバイデン・ハリス政権においてインフレ問題・移民問題に対応できていなかったことが挙げられるでしょうが、バーニー・サンダース上院議員が指摘するように、本来は生活者・労働者の利益を守る庶民のための党だったはずが、政治エリート・経済エリートが牛耳る鼻持ちならないエリート政党に変質してしまったことが根底にあるのではないかと思います。いろいろな面で二枚舌が目立つリベラルエリートの欺瞞が多くの国民から反感を買ったと思います。選挙戦終盤、ハリス氏への支持が高まらない時期に、民主党を支持するハリウッドや音楽界のセレブ達を大量動員したことも、ラストベルトの労働者にとっては不愉快だったのではないかと思います。

 さて、トランプ氏が当選した場合の懸念としては、アメリカ国外からの視点として、国際情勢がより不透明で緊迫する可能性があること、気候変動問題へのアメリカ合衆国の対応が非常に後ろ向きになるのは確実になることが挙げられます。

 トランプ氏は第一期において「ロシア疑惑」がしばしば問題になるなど、ロシアおよびプ-チン大統領に対して非常に融和的な態度を取っていましたが、その背後にあるのはトランプ氏がロシアに弱みを握られているとの疑念があります。トランプ氏は、かねてより当選した場合にウクライナへの武器供与を停止することによりウクライナ戦争を終結させることを示唆していました。さらに、常に親イスラエル的な姿勢を取っており、ネタニヤフ政権が無差別攻撃をエスカレートさせ、さらに中東全体に戦火が拡大した場合でも、イスラエルの動きを抑制させるために積極的な行動を取るのかは非常に不透明です。

特にウクライナ戦争に関しては、ロシアに有利な形で停戦にこぎつけたとしても、プーチンがそれで満足するとは思えません。当然のようにゼレンスキー政権に対してサボタージュ活動を活発化させるでしょうし、モルドバ・ジョージア・ポーランド・バルト三国・フィンランドなど周辺国(旧ソ連および帝政ロシア支配地域・東欧諸国)全体への干渉を強めるでしょう。トランプ氏がNATOに対して「脱退」を宣言したり、そこまでいかなくても非協力的な姿勢を示したら、ロシアがウクライナ以外の旧ソ連諸国に対して軍事介入を行うことは十分考えられます。その時に、アメリカが何もしなかったら、中国の習近平国家主席が千載一遇のチャンスと見て台湾侵攻を決断するかもしれません。さらに、北朝鮮は現在大量の兵士をウクライナに派兵していますが、これについては南侵するための訓練であるとの指摘もあり、朝鮮半島情勢も一気に緊迫化する可能性があります。もちろんそうなると、日本にとっても大問題になり、アジア・欧州・中東で同時に戦争が起きるようにことになればアメリカ経済への影響も深刻になる可能性は十分あります。トランプ氏に投票した有権者の多くは、海外情勢にあまり関心を持っていないとも伝えられていますが、そのことが将来我が身に降りかかってくるかもしれません。

ただ、一方で、トランプ氏にとって今回がラストターム(最終任期)であり、これ以上自身の再選のために支持率やロシアのことを気にする必要はありません。それゆえ、仮にロシアが自分にとって不利になるような個人的情報を流したとしても、すべて「フェイク」だと主張すればよいわけで、プーチンに対して強気に出ることも十分考えられます。さらに、再選にむけて右派層からの支持を強固にするためにアメリカ第一主義を強調し、NATOを口撃する必要もありません。もちろん、中間選挙で敗北すれば政権は後述のようにレームダック化するのですが、トランプ氏を辞任に追い込むのは相当困難でしょう。そう考えると、ウクライナ戦争に対するバイデン政権の方針を大きく変えないかもしれません。外交方針を大幅に変えなければ戦火が他の地域に拡大する可能性は低くなるでしょう。上記はあくまでも希望的な観測なので、トランプ氏復活により世界情勢の不透明化は高まったと考えるのが合理的ではないでしょうか。

最後に、今回、トランプ氏を応援したイーロン・マスク氏の政府要職への起用が取りざたされていますが、政権運営がどうなるのかついて指摘したいと思います。マスク氏に関しては、Xという公共プラットフォームの管理者であるにもかかわらず粗暴な言動を繰り返していることから、今後は同氏の存在に対して懸念の声が高まると思われます。しかしながら、トランプ政権第一期においてトランプ氏と政権閣僚との軋轢が繰り返されたことから、トランプ・マスクの蜜月関係もいつまで続くかは分かりません。政権第一期においては、トランプ氏の不安定な言動と政権内部の不協和音などが指摘された事などが原因で中間選挙で敗北し、政権がレームダック化しました。さらにコロナ対策およびコロナ期の経済政策が非難を浴びて落選したわけです。近年のアメリカ政治においては、現職大統領の与党が中間選挙で敗北し、上下いずれかの院で過半数を失い「ねじれ国会」が生じる結果、中間選挙後は党派性の強い政策の実行が不可能になるケースが続いています。トランプ政権第二期においても第一期と同じ光景が繰り返される可能性は十分あるのではないでしょうか。

大統領選における「選挙人の勝者総どり方式」や二大政党しか生き残れない単純多数決の小選挙区制、2年と短すぎる下院議員の任期など、アメリカの政治制度は非常に特異かつ硬直的であり、そのことの弊害は大きいとの指摘があります。しかしながら、二大政党の勢力が拮抗しており、さらに対立が深まっている状況では「時代遅れ」といわれる制度を抜本的に改正することは不可能と言って良いでしょう。私は日本の憲法や選挙制度に対しても、同様の問題点があると考えますが、そういった政治制度の硬直性は社会の分断を広げ、国家の発展を妨げると強く感じざるを得ません。





PAGE TOP