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仏大統領選で示された二回投票(決選投票)制の利点

2022年のフランス大統領選挙の決選投票は、中道政党「共和国前進!」の現職、エマニュエル・マクロン大統領が極右政党と呼ばれる国民連合の前党首、マリーヌ・ル・ペン候補を58.5%対41.5%(投票率72.0%)で破り、マクロン氏は再選されました。決選投票は前回2017年と同じ組み合わせで、前回は投票率が74.6 %でマクロン候補66.1%、ル・ペン候補33.9%の得票率だったので、ル・ペン候補に差を7.6%詰められたことになります。しかしながら、一時期は決選投票の世論調査でも5%差くらいまで詰められていたので、それよりは差が開き、蓋を開けてみたら無難な結果に終わったというのが大方の見方だと思います。

私はかねてから、国のリーダーを国民の一票で選ぶことの重要性から、天皇と大統領が共存する形で日本に大統領制を導入することを訴え、選出方法においてはフランスで採用されている直接投票による二回投票制の導入を訴えてきました。もちろん、大統領制導入の有無にかかわらず、地方自治体の首長選挙や他の小選挙区(一人区)選挙においても二回投票制の導入が望ましいと訴えてきましたが、今回の選挙結果はその主張の妥当性を示したと考えています。

「よりましな」候補を選ぶのが二回投票制

マクロン大統領はよく、「消去法で選ばれた大統領」と揶揄されています。実際に政権発足以来ずっと不支持が支持を上回っている状態でしたが、今回も選ばれました。これには彼が持つ運の良さもありますし、上記の二回投票制に恩恵を受けている部分もあると言えます。フランスの大統領選挙の投票ルールは、直接投票で大統領を選ぶものですが、第一回投票で有効投票の過半数の得票に届いた候補者がいなかった場合は上位二名の候補者で二回目の投票(決選投票)を行い、その勝者を候補者とするものです。このルールの下では、国民の多数派にとって「よりましな」候補が選ばれる傾向があります。

少数派の勝利をもたらす現行制度

大統領選挙などの首長選挙は当選者が一人の小選挙区制の選挙です。日本や韓国などの小選挙区制の各種選挙、イギリスの下院選挙、さらに選挙人による投票ですがアメリカ大統領選挙でとられている投票ルールは「単純多数決」であり、このルールの下では、有効投票の過半数の得票に届いた候補者がいなくても、他の候補より一票でも多くの票を獲得した候補が勝利します。つまり、候補者が3人いて、それぞれ四捨五入すると過半数からは程遠い33%程度だったとしても、A候補が、他のB,C候補のいずれよりも1票よりも多かったら当選してしまう仕組みです。

この仕組みが問題なのは、仮にB候補とC候補の政策が似通っていたのに候補者を一本化する調整が上手くいかなかった結果、政治スタンスとしては少数派であるはずのA候補が当選するというような事態をよく発生させているということです。代表的な例としては、1983年のイギリス下院選、1992年のアメリカ大統領選、2017年の日本の衆議院選などが挙げられるでしょう。こうした「少数派の勝利」を発生を避けるのが決選投票の導入です。

極端な候補が当選しにくいのが二回投票制

7人の有権者が、A,B,Cの3人の候補者の中から一名を選出する状況を考えてください。わかりやすい例でいえばA候補は政治的に右寄りで、B候補は真ん中よりやや左より、C候補は左よりの政策を打ち出しているとしましょう。表は、各投票者にとって望ましいと考えている候補者の順位です。例えば投票者1はA候補が一番好きで、二番目はB候補、一番嫌いなのはC候補の順になっています。

 投票者1投票者2投票者3投票者4投票者5投票者6投票者7
1位ABCACAB
2位ABBC
3位CAAA

ここで、単純多数投票では、A候補は3票、B候補とC候補がそれぞれ2票となり、A候補が勝利します。しかし、決選投票が導入された場合、結果は変わってきます。B,C候補とも2票なので、くじ引きでどちらかが決選投票に進めるとしましょう。ここで、B候補が決選投票に進んだ場合、A,B両候補の争いになりますが、この場合、A候補よりB候補を好む人は4名なので、B候補が過半数を獲得して逆転勝利します。C候補が決選投票に進んだ場合、A,C両候補の争いになりますが、この場合、A候補よりC候補を好む人は3名なので、A候補が過半数を獲得して勝利します。

B候補が決選投票に進んだ場合の結果からは、二回投票制では左右の極にいる候補より中道に近い候補が勝つ可能性が高くなっているのが分ると思います。これこそが、中道のマクロン氏が二回連続で勝利した(より正しくは極右のル・ペン候補が二回連続して決選投票で負けた)構造を示しているのではないでしょうか。

マクロン氏は2017年の大統領選挙も今回の大統領選挙も第一回投票を一位で通過しているのですが、前回は、マクロン氏の上司であった中道左派の社会党のオランド前大統領が支持率低迷で再出馬を断念したり、当初有利とみられていた中道右派の共和党のフィヨン元首相が汚職スキャンダルの追及を受けるなど左右の二大政党が失速した結果、社会党(日本でいうところの旧民主党系)を抜けて「都民ファーストの会」のような政党を立ち上げたマクロン氏が漁夫の利を得ました。今回も、左派の候補が乱立したりウクライナ戦争の勃発で現職への求心力が高まった結果、かつての二大政党の公認候補は惨敗に終わり、彼女らは決選投票でのマクロン氏への投票を呼びかけました。

上記の通り、両方の選挙とも支持率がそれほど高くなかったマクロン氏が一位で乗り切れたのは運による部分が少なからずあったと思いますが、仮に二位で通過したとしても、決選投票が極右のル・ペン氏であった場合は、事前世論調査の結果を見てもわかる通りマクロン氏が勝った可能性はかなり高かったと思います。

より、全員によって無難な候補が当選しやすい投票ルールもある

正直、今回、もしフランスの大統領選でル・ペン候補が勝ったらどうしようと内心思わなくもなかったのですが、フランス国民の良心が示されて少し安心しました。(マリーヌ・)ル・ペン氏は、父で党創設者であるジャン=マリー・ル・ペン氏を、反ユダヤ主義を主張し続けていたことから党から追放し、党名も国民戦線から国民連合に変えるなどソフト路線を進めて党の支持を拡大してきました。しかしながら、選挙戦では国民連合がロシアや親露的スタンスを取るハンガリーの銀行から融資を受けていることが非難され、ル・ペン候補がロシアへの接近やNATO軍事機構離脱など極端な政策転換を訴えた結果、国民の多数派からは彼女は大統領としてふさわしくないと思われたようです。

仮に今回、ル・ペン氏が選ばれた場合は、大統領選や各種首長選の投票ルールについて、より全員に取って無難な候補が当選しやすい性質を持つ「ボルダルール(投票者がすべての候補者に対して、よいと思う順に高い点数をつけ、総得点が高い候補者を当選とする方法)」や「是認投票(投票者は各候補者に対して是認するか否認するかの判断だけを別々に行う)」といったルールを提唱することも視野に入れなければならないと感じました。しかし、さしあたっては、構造が有権者にもわかりやすい二回投票制の優位性は保たれたのではないかと感じています。

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