菅首相は5日、就任時以来となる記者会見を行いました。菅首相の発言内容が期待できないだったことは事前に予想できましたし、実際にその通りだったので、それについてはあえてここでは言及しません。
しかしながら、異様だったのは、会見自体が誰の目にもわかるくらい官邸によりコントロールされていたことで、まるでロシアや中国など(旧)共産圏の独裁国家におけるもののようでした。
記者からの質問に対しては、内閣広報官の山田真貴子氏が記者を指名する形で行われたのですが、山田氏はあらかじめ一人一問を要求しました。ここで山田氏が愚かだったのは、「記者クラブの幹事→記者クラブの幹事以外の記者→外国の報道機関→フリーの記者」という悪しき慣例による指名順番にわざわざ言及しながら、指名した時点で自ら記者の名前を読み上げていたことです。明らかに政権関係者と旧知な記者のみを指名していたことが分かり、さらに山田氏が手元に持っていた資料は事前に報道各社から取りまとめた質問で、(断片的ながら)、新聞社名と質問文が写っていたとの指摘があります。
冒頭に、幹事社だったTBS・毎日新聞の記者だけはGoToや学術会議など政権に批判的な質問を行いましたが、その後、記者クラブ所属記者からはGoToや政権のコロナ感染症対策に関しての質問は皆無でした。それが現在の国民の関心事からすれば非常に不自然であることは言うまでありません。馴れ合いとしか表現のしようがない質疑応答が続いた後に、山田氏はようやくフリーの記者から質問を受け付けましたが、NHKは最初に指名された安積明子氏の質問だけ放映して放送を打ち切りました。
フリーからの質問については、江川紹子氏は「菅首相の記者会見の申し込み。9時32分にメールが来て、11時30分に締め切り時間厳守、と。その間私は、裁判所の傍聴券で並び、午前中の裁判傍聴してお昼の休廷でメール確認。フリーランスが参加できないよう、ここまで底意地の悪いことをやるのね」と指摘しています。
多くの記者が手を挙げている中、山田氏は、首相は次の予定があると言って18時50分過ぎに会見を打ち切りました。首相は、19時から約30分間、経済財政諮問会議に出席しましたが、何故、このような窮屈な日程を組んだのでしょうか?そもそも、今回の経済財政諮問会議の議事次第を見ると提案・報告だけで質疑応答の時間は無かったようでした。首相動静によると首相は15時48分から18時まで予定がなく、さらに会議の民間委員である竹森俊平慶應義塾大学経済学部教授と柳川範之東京大学大学院経済学研究科教授に関しては、大学の学部・大学院の時間割を見る限り金曜午後に担当授業は無いようでした。政府関係者から「会議は会見前に開いても問題はなかった。会見を打ち切るためとはいえ、少々あからさまだ」との声が漏れたように、会見を逃げるためにこのように一見して不自然と分かる対応をする菅首相と官邸関係者は愚かとしか言いようがありません。
政治家として「国家観」が欠如しているといわれる菅首相ですが、少なくとも先進民主主義国家における政府の説明責任(アカウンタビリティ)はどうあるべきかについて、ヴィジョンが欠如している事だけは明らかです。本人はこのような行動を続けていても大丈夫だと国民をなめているのでしょうが、我々は彼に「日本の民主主義はそんなものではない」と知らしめる必要があります。