政府の新型コロナ分科会は25日、①感染が急拡大している地域を含む経済圏とそれ以外との移動は行く場合も来る場合も控えるべき、②感染状況がステージ3相当と判断された地域では酒類を提供する飲食店に営業時間の短縮を要請する検討をすぐに始めるべき、③当該地域をGoToトラベルから一時的に除外すべることを検討すべき、などを柱とした提言を取りまとめました。
しかしながら、菅首相は、その日午前の衆議院予算委員会で、立憲民主党の枝野代表が「GoToトラベルで人の移動を促したことが新型コロナウイルスの感染再拡大の一因になった可能性は否定できない」と指摘したことに関して、「(延べ)利用者4,000万人のうち陽性者は約180人にすぎない」として、繰り返し因果関係を否定しました。また、枝野氏がGoTo以外にも様々な手段があると指摘したことに関しては「地域経済を支える中で、極めて有力」として、「政府の役割は国民の命と暮らしを守ることだが、暮らしを守らないと命も守れなくなる」、「地方のホテル、旅館、バス、タクシー、食材提供業者、土産店など全国に900万人おり、GoToトラベルで何とか雇用を維持してきている」と反論しました。
この場に及んで頑なに政策転換を否定する菅首相の頭の中には目先の経済を回すことしかなく、感染爆発した場合の備えなど何も考えていないのでしょう。一方で、菅首相がこうした態度を取り続ける背景には、全国旅行業協会会長である二階自民党幹事長の党内影響力の増大があるのではないかと推測でき、自民党の利権政治の根深さを感じざるを得ません。
追及が必要な赤羽国交相の答弁
GoTo利用と感染増の因果関係に関しては、まず、GoToの利用者数は複数回利用者が別々にカウントされる延べ人数であり、実際に利用した人の数とは大きく異なります。予算委員会では、枝野氏が感染者全員にGoTo利用の有無を聞いたのかと問いただしましたが、これに対し赤羽国交大臣は「利用した4,000万人に検温して、そのあと全てフォローしている。(問題の)180数名も、保健所からの連絡を受けた人間についてそのすべての数値を公表している」と答えました。枝野氏の追及が今一鈍く、彼はその後この点についての追及を行いませんでしたが、赤羽大臣の答弁は日本語として不明確であり追及が必要です。
赤羽大臣の答弁を聞くと、国(国交省または厚労省)が、保健所が感染者全員に対してGoTo利用の有無を必ず聞いて記録しているように思われるかもしれません。しかし、180数人という数は観光庁に聞いたところ、GoTo事業者が申告した感染者の合計とのことです。保健所または病院において陽性者が「GoToを利用した」と発言したケースに関してのみ保健所がその後当該GoTo事業者と連絡を取り、事業者が感染者発生を公表したケースに含まれる感染者数をGoToトラベル事務局が合算して公表したものが、180数人だったのではないでしょうか?
①国(国交省または厚労省)が、各保健所に陽性者全員に対してGoTo利用の有無を必ず聞くように指導しているのか、②180数人という感染者数はどのようなルートを通じて報告されているのか、国政野党やマスコミは国交省を問いただす必要があります。私には各保健所が国から各陽性者に対してGoTo利用の有無を聞くように徹底指導されているとは思えません。安倍―菅政権の隠蔽体質やGoToへの執着を見る限り、彼らはできるだけ失点を隠そうとすることが容易に想像できるからです。政府発表の数字を信用すべきではありません。
なし崩し的に経済活動の再開したツケが来ている
第一波の終わりと第二波が発生し始めたときに、政府が経済活動再開を我慢し徹底的な感染防止策を行い、検査を本気で拡充していたら、市中に残ったコロナウイルスは今よりもずっと少なかったはずです。台湾やニュージーランドのように「ゼロコロナ」が実現できた可能性はあったわけであり、そこまででなくても感染規模が韓国レベルにまで抑えられた可能性は高かったはずです。安倍―菅政権が、明確な戦略もなくなし崩し的に経済活動の再開を優先し、感染防止に真剣に取り組まなかったツケが今来ているであって、中途半端に二頭を得ようとするからどちらも不十分な成果しか得られないのです。やるべきことをやっていない菅首相に「暮らしを守らないと命も守れなくなる」などと言う資格はありません。
経済を守りたかったら今後3週間程度は感染抑止に集中して新規感染者数を低下させることが重要で、まずは感染拡大地域に対して協力の申し出と経済活動抑制への経済補償を手厚く行うのが筋です。感染状況がステージ3相当と判断された地域では、最低でも行く場合も来る場合もGoToトラベルの一時中止を行うべきです。そもそも何故、政府に飲食・観光産業で余剰となっている人員や施設を一時的に他産業に転換配置をしてもらうという発想が無いのか理解に苦しみますが、その理由が二階氏ら観光業と関わりが深い議員らの存在だったとしたら非常に問題です。GoToを中止させるには、政府を追及するとともに二階氏ら政府に入っていないがGoTo事業に大きな影響力を持つ自民党議員を追及することが必要かもしれません。
GoToトラベル東京除外で責任を押し付けあう国と都
最後に、小池都知事は飲食店等に時短要請し、不要不急の外出を訴え、「もっとTokyo」を中止し、GoToイートも中止しました。しかしGoToトラベルに関しては、国が判断することと言って責任を国に押し付けています。都が要請すれば国は断れないはずで、要は小池知事が要請をやりたくないだけです。国と都が責任を押し付け合って、最大の感染地域でGoToトラベルが継続しているのは由々しき事態です。政府の新型コロナ分科会は、政治的圧力に負けずGoToトラベル東京適用除外を強く主張していただきたいと思います。