今回の衆議院選挙で、自民党は191議席と過半数を大幅に下回り、公明党も24議席にとどまる大敗を喫しました。一方、野党では立憲民主党が148議席、国民民主党が28議席、れいわ新選組が9議席を獲得するなど、多くの党が議席を増やしました。しかし、日本維新の会は、大阪万博関連や政策活動費問題の影響で6議席減の38議席に終わりました。
与党敗北の主因は、石破総理が自民党総裁選中に示した公約を反故にして、不十分な対応のまま解散に踏み切ったことです。台風被害を受けた能登半島の復旧を後回しにし、裏金問題で非公認となった候補が代表を務める党支部に2000万円を支給したことが批判を招きました。
選挙で最も議席を伸ばしたのは立憲民主党ですが、最も注目が集まっているのは国民民主党です。同党は「対決より解決」を掲げ、与党との協力を否定しない立場から「ゆ党」とか「自公維国」と呼ばれたりしています。維新も同様の立場ですが、議席減により馬場代表への退陣圧力が高まり、後任を選ぶ代表選が予定されています。
国民民主党の玉木雄一郎代表は減税を掲げ、メディアで注目されています。同党が公約とした「103万円の壁」の引き上げ問題が、当面の最大の政治課題となっています。所得税課税の基準として103万円の年収を超えると税金がかかってくるため、この「壁」の存在が労働意欲の低下を招いている指摘されています。玉木氏は、この額を178万円に引き上げることを提案していますが、全額を基礎控除の拡大とした場合、7.6兆円の減収となると財務省は試算しています。これに対し玉木氏は「財務省から詳細な説明を受けていない」と述べ、減税の経済効果に期待を示しています。
減税による経済効果は、古典的なマクロ経済学では政府支出と同様「乗数効果」があるとされていますが、政府支出の効果に比べて低いとされています。近年、減税の方が効果的という研究もありますが、確実な結論には至っていません。問題は、これに加えて国民民主党が消費税5%への引き下げなど減税策を山ほど主張する一方、増税案を具体的に示していない点です。財政への影響試算を欠いたままの政策提案は懸念されます。玉木氏も7.6兆円に関して「財源は政府・与党が提示する責任がある」と述べ、政策の財源確保が不透明なままです。
「103万円の壁」などの問題は、所得控除が段階的で煩雑なために生じます。配偶者控除や特別控除なども労働意欲を阻害する要因として指摘されています。これらの控除が滑らかな関数のように決定されれば、現行の「壁」は生じにくくなりますが、国民民主党は本質的な改革に触れていないようです。
また、社会保障の複雑さを解消するため、基礎年金や所得控除を廃止し、ベーシックインカムの導入を提唱する声もあります。私が代表を務める政治団体「未来進歩党」は試算の結果、成人月額6万円のベーシックインカムが現行の税体系を大幅に変えずに実現可能と結論づけています。国民民主党もベーシックインカムの導入を目指していますが、具体的な試算は示していません。
玉木氏は経済の専門家として振舞っていますが、国民民主やれいわのように財源の裏付けなしで政策を主張する姿勢は、財政持続性を無視したポピュリズムです。れいわ新選組の支持者にとって理論的支柱となっているMMT(現代貨幣理論)は、自国通貨建ての国債ならインフレが高進しない限りいくら借金をしても財政破綻は起きないと主張しますが、現実の政治では、インフレ進行時も借金をして大規模な財政支出することをやめられない傾向が見られます。選挙を意識したバラマキ政策合戦は、構造的に民主主義国家においては避けられないという問題があり、緊縮政策への転換も政治的には難しいです。中央銀行の独立性を軽視する政党も多く、政治と経済政策の関係を研究する「政治経済学」の研究結果の多くが示唆するように、持続可能な財政運営は必要です。
財政赤字を拡大させる恒久的なバラマキは、「ドーマーの命題」が示唆するように持続可能性を損ねます。財政破綻を招かない条件として「ドーマー条件」というものがありますが、利子率が成長率を上回る場合、プライマリーバランスを無視する運営は危険です。国民民主党の政策は、経済学的試算の提示がなく、財政悪化をさらに深刻化させる恐れがあります。彼らはSNS対策に沢山の資金を使っているようですが、それよりも政策の裏付けのために支出を増やすべきだと言わざるを得ません。