日本の政治を近代化させる「決選投票比例代表制」の導入

 自民党の派閥裏金問題に対して、国民の怒りが最高潮に達しています。政治とカネの問題を解決するためには、政治資金規正法という政治資金を取り扱う法律を改正することは不可欠ですが、それだけで問題が解決するとは到底思えません。

 政治腐敗が生じるのは権力の固定化=政権交代の欠如と大いに関係しています。さらに、日本では議員が責任を全て秘書に転嫁していることから見てもわかる通り、議員と秘書の前近代的な上下関係も見直さなければ、政治資金規正法が改正されても同じようなことが起きかねません。

 政治家に関しては、どの党に属しているよりどのような人であるかが重要であると言う人がいますが、それは政治家が議員在職中は様々な特権的待遇が与えられるので、高潔な人格が求められるからに他なりません。逆に、政党が民意を政策によって集約する存在であることを改めて認識すると、各政党に所属する議員に特権を与えずに済むのならば、議会選挙は、「個人」を選ぶのではなく単純に「党」を選ぶ選挙に変更しても問題ないのではないでしょうか。

 以上の考えに基づき、私たちは、「個人」を選ぶのではなく「党」を選ぶ選挙へパラダイムシフトが望ましいと考えます。これまで熟慮を重ねてきた結果、私たちは「決選投票比例代表制」と名付けた新しい比例代表制を考案しましたので、この制度の概要と詳細についてお話しさせていただきます。


「個人」を選ぶ選挙から「党」を選ぶ選挙へ

 「党」を選ぶ選挙となると比例代表制が思いつきますが、単純な比例代表制を導入した場合、通常どこの党も単独過半数を獲得できない多党制となり、連立政権が形成されることになります。その際の問題点としては、①多党制の下では政権が不安定になり内閣が短命になる傾向がある、②政権の枠組みが政党間の話し合いで決まるので国民が政権選択をできない(つまり政権の首班を選べない)、という問題が発生します。

表1: 各国で導入されている主な選挙制度の長所と短所

 上記表1のように、現在、各国で用いられている選挙制度には次のような長所と短所がありますが、「決選投票比例代表制」は以下のことを全て実現します。

  • 一票の格差を解消する
  • 死票を減らし、民意をより忠実に議席へ反映させる
  • 選挙による政権選択(政権交代)を可能にする比例復活を無くす
  • 与党の安定過半数確保をなるべく実現し、政権の不安定化を防ぐ

 以前、私たちはこの選挙制度を「修正プレミアム付き比例代表制」と呼んでいましたが、より皆様にイメージがダイレクトに伝わるように、名称を改めました。

 「プレミアム付き比例代表制」は、イタリアやギリシャで導入例があり、ギリシャでは現在も用いられている比例代表の選挙制度です。プレミアムというのは特権ということで、比較第一党(第一勢力)になった政党(または政党連合)にボーナス議席を与えることにより、①第一党(第一勢力)が議会において多数派を形成し、②政権の安定化と比例代表制下での政権選択が実現することを目指すというのが、このプレミアムの主旨となります。


決選投票比例代表制の概要

 「決選投票比例代表制を衆議院に全面的に導入することを想定した場合、

 私たちは

  • 全議席に対して比例代表制を採用し全国一選挙区とする
  • 有権者は自分が支持する政党名(決選投票では政党連合名)のみを選択する

ことを想定し、その上で、

  • 二回投票制(決選投票制)を取り、
  • 第一回目の投票で過半数の得票を得た政党(連合)がない場合は、得票率が上位2つの政党(連合)の間で決選投票を行い、勝者に過半数の議席を与える

ことを考えています。

 全国を一選挙区とする比例代表選挙の全面導入は死票を減らし、一票の格差を解消します。2回投票制の採用は、比例代表制度下でも明確な政権選択選挙を実現させると共に、得票率50%超を与党連合の議会での安定過半数獲得の要件とさせ、政権の正当性と安定性を制度的に保証します。

 さらに、この選挙制度の下では、有権者は候補者でなく政党を選ぶので、逆に言えば、議員の身分を固定化させる必要はありません。政党の職員が、ドイツの連邦参議院のように国会が開催される日だけ「国会議員」になって討議を行えばよいのです(議員バッチではなく通行証を提示して)。

 そうすれば、党職員の生活を支えるために、今よりも政党交付金などの公的助成は多く必要になる可能性はありますが、不要な議員特権や公設秘書を廃止することが可能になります。個人が候補者として選挙に出馬する必要もなくなりますので、個人が資産を持ち出す必要もなくなるでしょう。

 私は、この「修正投票プレミアム付き比例代表制」の導入こそが、日本の政治文化を世界でも最も先進的なものに変える「ファーストベスト」の政策だと確信しております。

 ここまでがこの制度の概要となります。以下、現行の衆議院への導入を想定してこの制度をより詳しく説明しますが、お時間のある方は是非最後までお読みください。


決選投票比例代表制の詳細

 図2と3はこの制度の単純化されたイメージです。

図2 : 第1回投票のイメージ

図3 : 第2回投票のイメージ

  詳細に書くと、選挙は以下のようなプロセスで行われます。

  1. 選挙に参加する政党(政治団体)は、1つ以上の政党(政治団体)が含まれる政党連合を結成する。
  2. 各政党連合に関しては、所属する各政党は各々の公約を発表する一方で、政党連合としての共通公約も発表する。
  3. 有権者は、ある政党連合の中に所属する政党(政治団体)に投票する。
  4. 各政党連合に所属する政党の議席配分に関しては、得票率に応じて案分(最大剰余方式)とする。
  5. 第一回投票で最多得票した政党連合の得票率が50%を超えた場合、各政党連合の議席配分は図4および図5に規定されるようになる(最多得票した政党連合には過半数の議席を与える)。
  6. 第一回投票で最多得票した政党連合の得票率が50%以下の場合は、得票率上位2位の政党連合間で決選投票を行う。
  7. 決選投票では有権者は政党連合を選択し、勝者に過半数の議席を保証する。各政党連合の議席配分は図6および図7に規定されるようになる。

図4 : 第一回投票において最多得票した政党連合の得票率が、
50%を超えた場合の各政党連合の獲得議席

図5 : 第一回投票で最多得票した政党連合の得票率と議席占有率の関係
(第一回投票で過半数の得票率を得た場合)

図6 : 決選投票に進んだ場合の各政党連合の獲得議席

図7 : 決選投票で勝利した政党連合の得票率と議席占有率の関係

 政党連合というと日本ではあまりなじみがないかもしれませんが、考え方が比較的近い政党間で連合が組まれることは海外でよくあることであり、イタリアのオリーブの木→ルニオーネ(中道左派)と自由の家(中道右派)、チリのコンセルタシオン・デモクラシア→新多数派(中道左派)と変革のための同盟(中道右派)というように、左右二大政治連合に分かれて政権を争う例が代表的です。フランスにおいて、二大政党の一翼を担っていた社会党(日本で言えば旧民主党のような存在)が弱体化し、それに代わり急進左派の不服従のフランス(日本で言えばれいわ新選組に近い)が躍進したこともあり、2022年の国民議会(国会の下院)選挙において、中道左派ー左派政党間で「新人民連合環境・社会」という政党連合が組まれ、マクロン大統領を支持する与党連合「アンサンブル」を過半数割れに追い込んでいます。

 表5および7を見ると分るように、第一回選挙で可過半数の得票率を超えることにより勝利した勝者連合の議席占有率は、決選投票でやっと勝利した勝者連合の議席占有率と比較すると、高くなっています。いずれも一定の得票率を超えた場合は、憲法改正の発議が可能となる2/3を超える議席占有率を得ますが、第一回投票で勝利した場合は約56%がその要件であるのに対し、決選投票で勝利した場合は74%近くの得票率と相当厳しくなっています。

 なお、決選投票が行われる場合は、①決選投票に参加しない政党連合の決選投票に参加する政党連合への追加加入、②政党連合名の変更、③決選投票に参加する政党連合の政治公約内容の一部変更を認める形となっており、決選投票で勝利するにはより広い支持基盤を持つことが求められる制度設計となっています。

さらに、

  • 第一回投票、決選投票とも、投票率が50%以下であれば、3か月以内に再選挙とする。
  • 各政党は、最終的に行われた投票の際に結成した政党連合で国会の会派を結成しなければならない。会派から離脱した政党は、プレミアム(つまり政党連合参加により生じた議席の上乗せ分)を失い、その分の議席は他の政党連合および政党には配分されず、国会の任期中は消滅する。

という制限を加えており、安易な政権離脱による権力の不安定化を抑止する制度設計となっています。


決選投票比例代表制のシミュレーション

(2021年の衆議院比例代表選挙の結果への応用)

 では、2021年の衆議院比例代表選挙の結果をこの選挙制度に当てはめてシミュレーションを行ってみましょう。第一回投票で維新と旧N国を除く野党連合が立国社、共産、れいわの3グループに分かれた場合(ケース①:表2参照)と野党連合が立共国社れで統一された場合(ケース②:表3参照)に分けましたが、決選投票では、この立共国社れの5党で連合が組まれたと想定すれば結果は同じで、最終的な議席配分は表4のようになります。

表2 : 得票率シミュレーション①
(2021年衆議院比例代表選挙の結果に基づく)

表3 : 得票率シミュレーション②
(2021年衆議院比例代表選挙の結果に基づく)

表4:議席配分シミュレーション
(2021年衆議院比例代表選挙の結果に基づく)

 結局は、自公が勝利するのですが、野党は現在よりも議席を増やしています。詳しくは、以下の傾向があることが結果から指摘できます。

  • 決選投票で勝利した与党連合に所属する各政党は、第一回投票における得票率に比較するとかなり多くの議席を獲得するものの、現行制度下での293に比べると20議席減の273となる。
  • 決選投票に負けた野党連合およびその他の政党に関しては、第一回投票における得票率に比較すると獲得議席は少なくなる。しかし、決選投票に進出した政党連合にもプレミアムが与えられるため、現状よりは議席増に働く。具体的には、野党連合は5党公認で当選した候補の合計121を15上回る136を得る。
  • 現行制度で恩恵を受けている大政党の自民党と立憲民主党には不利な結果になる。
  • 中小政党は大きな恩恵を受ける。例えば、公明党はプレミアムの恩恵もあり現行制度下の32の二倍増以上の72議席、維新は現行制度下の41よりも14多い55議席、れいわも8議席多い11議席となる。

 大政党には不利な選挙制度なので、自民党や立憲民主党はこの制度の導入に対して不満を持つかもしれません。しかし、この制度は「政治家」を選ぶ選挙から「党」を選ぶ選挙へ、「二大政党制もどき」から「二大政治勢力」への変更を促すものです。

 決選投票比例代表制は、多党制を促す完全な比例代表制ではあるので、この制度の下では、自民や立民にみられるように、「小選挙区で勝つためにはより広範な支持を得る必要がある」と言う理由で、政策スタンスが異なる派閥やグループを無理やり一つの政党にまとめる必要性もなくなってきます。なので、この選挙制度が導入されれば、今よりは多党化傾向になるでしょう。

 しかしこのことは、有権者および政治家にとって一定のメリットを生み出します。現状では、衆議院の小選挙区選挙における自民および立民の候補者に関して、皆さんは自分が好きな派閥(グループ)の候補者を選択することができません。例えば、「○○党の支持者ではあるが、党内ではハト派の傾向があるA派閥(グル-プ)の方がタカ派傾向の傾向があるB派閥(グル-プ)よりも好きなのだけど、自分の選挙区の候補者がB派閥(グル-プ)に所属しており、本当は嫌なのだけど○○党を支持しているか仕方なく当該候補者に投票したと。」いうような経験をしたがある人は結構多いのではないかと思います。しかし、私たちが提唱する制度では、このようなことは起こりません。

 政党にとっても同様で、自分たちが本当に実現したい政策を玉虫色にする必要はなくなってきます。もちろん、決選投票では有権者からの広範な支持を得ることが必要なので、政党連合として集約した政策は玉虫色的になることはあるでしょうが、今よりも政治的な妥協のプロセスが国民の目に分かりやすい形になるでしょう。

 この制度が導入されれば、現在よりも多党制になって党が細かく分かれたとしても、有権者も政治家も、より自分の好きな政策を提示している党を選ぶことが可能になり、さらに決選投票では、大きな枠組みとしてどちらの政治勢力が自分の好みであるのかも選択できます。

 決選投票比例代表制の導入は、日本の政治文化を近代化させ、他国にも模範例として参考にされるようになると私たちは確信しています。


参議院選挙への適用について

 最後に、参議院の選挙制度に関してですが、私たちは参議院に対してもこの決選投票比例代表制の導入が望ましいと考えます。私たちは、現在の参議院の選挙区と全国比例区を廃止し、参議院を、各地方(州政府を設置した場合は州)を代表する院として、具体的には現在衆議院の比例代表選挙のブロックを参考に全国を10くらいのブロックに分割し(図7は道州制区割りの一例です)、ブロックごとに定数を割り当てるべきであると考えます(各ブロックに対する最低割り当て議席数を設け、その上に、人口に比例した定数を設けます)。また、ドイツの連邦参議院を参考に、参議院の定数の一部は、地方政府の代表者枠として、例えば州が設置された場合は各州の知事(仮称)本人または代理人に充てることを検討しています。衆議院と参議院の構成員が重ならないようにするには、「各都道府県議会(州議会)の各会派が選んだ人たちが参議院の議員も兼ねる」形にするというのも一つの方法かもしれません。

図7:道州制の区割り試案
鈴木(2023年)による

 現在の参議院は、各都道府県の代表(選挙区選出)、職能団体・労働組合・宗教団体など利益団体の代表とタレント候補の選抜(全国比例代表区選出)という、分かり性質を持っています。合区を含む都道府県ごとの選挙区は、選挙区ごとに定数がバラバラで、小選挙区と中選挙区(大選挙区)が入り混じった制度となっており、選挙制度としては極めてアンフェア―な仕組みになっています。

 一方で、全国比例区に関しては、有権者は「政党名」又は「候補者名」で投票することが可能ですが、「候補者名」と利益団体の組織内議員およびタレント候補の得票は直結しています。利益団体の組織内候補が当該組織の全面的支援を受けて当選した場合、その団体の利益を第一に考える行動を取るように組織から圧力を受けます。つまり、国民全体の利益を第一に考える行動を取りにくくなります。さらに、タレント候補の乱立に関しては、単なる転職活動なのではないかと揶揄される事例が多くみられます。以上から、全国を一単位とした比例代表選挙おいて「候補者名」を有権者に書かせることは、国民の利益にかなった結果を生み出してこなかったと言えるでしょう。

 全国を10くらいのブロックに分割し、ブロックごとに衆議院と同じような形で決選投票比例代表制を導入すれば、合区問題も、参議院選挙が利益団体の争いの場になることも、タレント候補が乱立することもなくなります。地域政党が一定の議席を得ることも十分予想されますが、それは東京一極集中の解消の観点からは悪いことではないと思います。

参考文献
鈴木しんじ, 2023年, 「道州制の論点再考:スピルオーバーを中心に考えた道州制の区割りと試算 」, 『RIPPレポート』, Vol.3.

文責:進歩党代表兼政策調査会長 鈴木 しんじ


本制度のより詳細な資料はこちら
進歩党の選挙制度改革案~決選投票比例代表制~





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